記者コラム 「多事奏論」 編集委員・伊藤裕香子
30年ぶりとなる少数与党政権誕生のちょうど1カ月前、石破茂首相が衆議院を解散した翌々日に、「各党の目の前の暮らしへの対応策と未来への戦略をしっかり報じて」と読者から背中を押された。
いざ総選挙が始まれば、あきらめの感を抱く人の意見が聞こえてくる。「政治は選挙であれこれ公約を打ち出しても、終われば言いっ放し。進まないからマスコミもあまり報じない。どのみち変わる期待もしていない」などと。
漂うのは空しさだ。
自民党候補の選挙演説会で配っていた赤い小冊子「みんなへの約束」を、読み直す。「未来の有権者(ゆうけんしゃ)のみなさんへ」から始まる10ページの政策集。ふりがなの付いた文章で「自民党(じみんとう)がみなさんの素敵(すてき)な今と未来を守る」「政治(せいじ)の都合ではなく、国民の目線で見直し、改善(かいぜん)を続(つづ)けていきます」などとつづっている。
有権者の声の向こうには、忖度(そんたく)が勢いを増した一強政権が見えていた。「素敵な今と未来を守る」姿から遠すぎたこれまでのふるまいは、政治家の言葉でしっかりたどることができる。
与党の過半数割れが確実とな…